筆者はパンデミック中から何かしらの方法で現地通貨の収入を得るため、いくつかの分野でビジネスを試みてきました。現在でも継続的に収入を得るため散髪などをしているのですが、中でも主な手段としてやってきたのが食品販売です。
特に自分の得意分野と材料の入手のしやすさ、販売のしやすさ、日本の味を再現できるかといった要素を考えた際、少なくとも1つ明確にたどり着いた結論がコロッケでした。コロッケは主な原料がボリビアでも食卓でよく使われるジャガイモ。さらに大きさを調整することで販売価格を調整することができます。商品の形が崩れにくいことも、販売のしやすさに大きく寄与します。
今回はこのようにしてコロッケを販売してきた経験を少しお分かちして、ボリビア文化などの側面で気づいたことなど徒然なるままに挙げてみました。
ボリビアは行商がしやすい
主な販売方法としてはヤパカニの市街地を歩き回るという手段で、その他友人たちによる予約でコロッケを販売しています。ボリビアに来る以前は、一人の外国人として食べ物を売り歩く経験をするなど1ミリも想像していませんでした。それがもはや当たり前の現実になっているとは…。状況の変化というのは恐ろしいものです。
ボリビアの街中で観察すればすぐ分かることとして、食べ物の扱いが日本に比べて非常にシンプルです。たとえば日本では食べ物が外気に触れることはそれほど多くありません。大抵はスーパーやコンビニなど屋内のよく管理された空間の中で食品が扱われます。外に持ち出す際には専用の容器や包装を施し、しっかりと商品の劣化を防ぎます。
ボリビアでは外気による品質劣化が比較的問題にならない
一方ボリビアでは食品の劣化などまったくお構いなし。コロッケを販売する時にはシンプルに清潔な箱に入れて持ち出し、渡す時には紙ナプキンをつけて小分け用のビニール袋に入れればOK。実に簡単です。
ちなみにヤパカニは自然に囲まれているとはいえ、空気はそこまできれいとは言い難いものです。未舗装路や道路わきの砂が風で舞い上がります。一昔前のレトロな車やディーゼル車が質の悪い排気ガスをまき散らします。加えて基本的に高温多湿な環境。日本の清潔な環境で少しでも潔癖症の傾向をもつ人であれば、すぐに発狂してしまいそうなもの。しかしコロッケを手軽に販売するには実に好都合な場所であるというのは間違いありません。
もちろん食品の鮮度には十分注意を払う必要があるのは言うまでもありません。
外食が当たり前
日本には弁当の文化があり、ビジネスマンの昼食は弁当派と外食派に分かれると思います。かたやボリビアでは、2時間の昼休憩時間を使って家に戻って家族と食事をとるか、シンプルに外食するかのどちらかになります。そのため外食に対する精神的ハードルが圧倒的に低い。
それに加えてヤパカニは商業がとても活発な地域柄。昼であろうと店を空けることは許されないケースも多々あります。そこで、商店を営む多くの人は近隣のレストランなどから出前を注文するのです。昼前になると、スープや昼ご飯の皿を届けるために奔走するレストランの人たちがよく目につきます。
この商売何でもウェルカムな風潮が、街中で行商人をよく見かける理由の一つであることは間違いありません。
なので街で各商店に声をかければ、誰かしら興味を示して食べ物を買ってくれます。「コロッケ5ボリで売ってますよ」と言えば、「どれどれ試しに食べてみようじゃないか」と小銭を探してくれるという流れです。
販売に規制のあるエリアが存在する
基本的にあらゆる場所で行商を行うことができるのがボリビアのいいところ。筆者自身、コロナ禍でワクチン接種のために病院の敷地内で並んでいるところへゼリーを売る行商人を見て驚いたことがあります。そのくらい、人がいるところならほぼどんなところでもものを売ることができます。
もちろん例外も存在します。たとえば銀行など公的な機関は警備が行き届いていて立ち入りが許されていません。またメルカドによっては「行商は禁止」と警備員から注意を受けるところも存在します。実際に筆者もメルカドで声をかけて回っていたところ、終わりがけに注意を受けたことがあります。その場合はできるだけ感じよく速やかに立ち去るのがベターです。
現地の人の反応
ボリビアには本来コロッケと定義できる食べ物が存在しません。強いて言えばRelleno de pápa(「レジェーノ・デ・パパ」と呼ぶもの)。そのため、筆者がコロッケを販売するにあたって簡単な説明は必須でした。感覚ベースですが人々の大まかな反応は以下の通りです。
- 40%…”todavía「まだいらない」”と言って敬遠する
- 30%…無視、相手にしない
- 15%…興味を示したうえ、購入してくれる
- 10%…興味を示したが購入に至らない
- 5%…購入したうえにその場で食べ、追加で買ってくれる
まずもっとも多いのが、説明を何となく聞き流しながら”todavía”つまり「まだいらない」と言ってやんわりと断るケースです。日本の文化で言うところの「結構です」に相当する言い方ですが、最初のうちは「断るなら分かりやすくはっきりと拒絶してほしい」と思ったものです。この断り方はボリビア人なりの配慮なのでしょうか。
次いで多い反応は無視です。筆者がアジア人であるというのもあるかもしれませんが、ぱっと見日本人なのか中国人なのか分かりづらい場合には単純な先入観から相手にしない人は一定数存在するようです。もちろんこの層の人の中には何かのきっかけで心を開く人も少なくないでしょう。
声をかけているうちに興味を示してくれる人は、話の運び方次第で大抵買ってくれます。主な材料を説明した後に強調するのはれっきとした日本のレシピであること、香りが良いこと、衛生面健康面で優れていることなどを含めると良いでしょう。
もちろん説明しても購入してくれない人もいます。基本的に買った食べ物をとっておいて後で食べるという習慣がないため、その場で食べる気がない場合には買ってくれません。おやつの時間に売るものは、あくまでもおやつのために消費されます。
人数が多かったりすると、複数人に提供している間に食べてしまう人が現れます。もしコロッケがその人の胃袋をがっちり掴んだ場合、一度に数個をまとめて買ってくれることでしょう。おいしそうに食べる人を周りの人が観察して寄ってくるので、大量に売ってしまえるチャンスです。
気になる費用対効果は…
実際のところ一人でコロッケを行商してどのくらいの儲けになるのか。ズバリお答えしていきます。
まずはコロッケの原価です。食品の品質を最優先に考えた時、作り置きはなるべく最小限にとどめたいところ。そこで一日のコロッケ生産量をおよそ40個程度と仮定します。ボリビアの物価に鑑みて材料を揃えると、平均してこの数量を製造するのに必要な投資額はおよそ40Bs程度となるでしょう。
40個のコロッケを1個あたり5Bsで完売できたとすると、売り上げは200Bs、粗利益額はざっと160Bsとなります。現地の感覚からすれば1人分の日当としてかなり良い方です。
ただし継続的に販売するとなると問題なのは、販路の拡大です。特定の人が毎日購入することは現実的ではないので、できるだけ多くの人に触れる努力は必須。たとえばビジネスツールとしてボリビアでメジャーなのはFacebookです。他に、交渉していくつかの店舗に卸すなど継続的な販路を確保できるなら安定した収入を見込めるでしょう。
もう一つの要素は拘束時間。筆者の場合、コロッケ40個を製造するのに必要とした時間はおよそ5~6時間です。それに加え販売に充てる時間も必要なので、1回の販売で約8時間から10時間を要していたことになります。最大限完売したとして、時給換算16Bs~20Bsといったところ。さすがに日本と比較すると空しくなってしまいますね。
趣味から始めるにはちょうどいい
ということで、ボリビアでのコロッケ販売は継続的にビジネスとして成立させるにはかなりの努力が求められることが分かります。スペイン語を使いながら趣味として始めるにはちょうどいいでしょう。
コメント