前回の記事では南米アルゼンチンの首都ブエノスアイレスの長距離バスターミナル事情について解説しました。
南米の陸路はまだまだバスが主流ではありますが、どちらかというと貧困層の乗り物であるバスのターミナルはサービスの質がやや劣るというのがポイントでした。
ブエノスアイレス・レティ―ロバスターミナルについてまだご覧頂いてない方はこちらからどうぞ↓
今回はいよいよ旅のメインの部分についてのレポートとなります。
南米でバックパッカーをやってみたい方などはきっと参考になるポイントも多いかと思いますよ。
チケットの購入
ブエノスアイレスからボリビア・サンタクルスまでの路線は、義理の家族から勧められたQUIRQUINCHO(以下、キルキンチョ)での便を選びました。
ちなみに執筆時調べたところ、キルキンチョというのはその地域に生息しているアルマジロのことだそうです。
他の会社の便も選択肢としてはあるかもしれませんが、旅を終えた現在もう一度この区間を移動するとすればやはりキルキンチョを選ぶかなと思います。
そのくらいサービスや越境の手配が良かったと感じています。
レティ―ロ・バスターミナル内のカウンター番号は247番です。
チケット価格の相場
昨今のアルゼンチン経済は超超超不安定で、毎日米ドルとのレートが大きく変動するほど。
その煽りは当然バスのチケット価格にも反映されるわけで、恐らくここで記載する相場観は現在ではほぼ参考にならないことはあらかじめお伝えしておきます。
筆者がチケットを購入した時の価格は80,000アルゼンチンペソになります。
これは当時の500ボリビアーノ弱、円換算ではだいたい8~9千円程度ではないかと考えられます。
南米の国々の中でアルゼンチンとボリビアの移動距離はなかなかのものですが、わずか1万円足らずで国境越えできてしまうのですから驚きです。
日本人にとっては新鮮な感覚です。
2階建てバス
キルキンチョのバスは2階建てです。
これは南米の長距離バスの中では決して珍しいものではなく、多くの長距離バス会社が採用しているMarcopolo(マルコポーロ)社製などの大型車種による恩恵です。
日本ではあまり良い顔で振り向かれることのない長距離バスですが、南米ではこのような大型ハイクラスなバスのおかげで良好な車内サービスが人気です。
1階部分は車両の後ろ半分あたり、2階部分はほぼ全体が客室として割り当てられています。
筆者は今回1階部分に乗車しました。
座席は1階部分に全部で12席あり、それぞれの座席に数字が割り当てられています。順番は左から右に数えて3列ずつ、前後に4列といった具合。
その中で筆者が選んだのは10番。最も左後ろの快適安全スペースです。
本当は2階席でもと思っていましたが、若干割高かつ空席がだいぶ限られていたためこのポジションにしました。
ちなみに2階席は87,000ペソでした。7千ペソ上乗せしたらちょっと贅沢できましたが、1ペソでも省きたかったので今回は仕方ありません。
パスポートの入国印が大事
今回筆者がやってしまったミスの1つは、アルゼンチン入国の際にパスポートに入国印を押してもらっていなかったということ。
バス会社にはその日の朝飛んできたことを繰り返し説明したのですが、本来は入国した日時を証明するために入国印は重要なんですね。
こちらはいろんな書類を見せて力技でどうにか購入。
出発
チケットを購入したら、出発ロビーへ移動。指示された出発ゲートへと向かいます。この時は71だったと記憶しています。
キルキンチョ便の出発時刻は午後3時ですが、どうにか間に合いました。
長距離バスターミナルはいろいろな国や民族が混ざっていて国際色豊かです。とはいえ日本人からすればほぼほぼ「南米人」ですが。
定時性
南米のバスは出発時間がとにかくルーズです。1時間~2時間程度の出発の遅れはほぼ遅れとみなされないと考えておいた方が良いでしょう。
とはいえやはり世界に誇る”大都市”ブエノスアイレスを代表するバスターミナルから出る便というだけあるのでしょうか、キルキンチョ便は割と優秀だったと感じています。
まぁそもそも2日間にも及ぶ長旅の中で1~2時間の遅れなど誤差に等しいと言えるでしょう。どちらかといえば問題は越境にかかる手続きの時間かもしれません。
待つことおよそ15分から20分くらいだったと思いますが、キルキンチョ便のバスが登場。
大型の車体である上に割と新しく、洗車も良くされてピカピカだったため迫力満点です。
搭乗手続き
バスが停留したら、車掌さんが改札しつつ運転手陣が大きな荷物を車体後部の荷室へと格納します。
筆者は大型のスーツケース2つに大きめのリュックサック1つ、ブリーフケース1つというなかなかのボリューム。
格納荷物1つが無料で、余分に1つ預けるごとに150アルゼンチンペソが求められました。ここでも現金が必要なので注意です。
いよいよパスポートと搭乗券の写しを見せて乗り込みます。
一度乗ってしまったら出ることはできないと言われたので、空港から送ってくれた友人とはここでお別れ。あとは完全に1人での行動となります。
車内環境
車内環境について簡単に解説します。
座席
前述の通り車内は3列なので、座席の横幅は広くて非常に快適です。
座席1つ1つのクッションも日本では高級路線でしか見られないようなとんでもない分厚さで、長時間くつろぐうえでこの上ない設備です。当然ながらリクライニングも結構な角度までいきます。
足元にはある程度の大きさの荷物は許容できるだけの十分なスペースがあり、ボードを下ろすことでフットレストになるため足元の快適性も良好。
エンターテインメント
前の席の背面にはモニターも設置されており、エンターテインメントを楽しむこともできます。ただちょっと触っただけで再起動して3~4分の設備紹介ビデオが始まるのでうんざりすること間違いなしですが。
そこは南米クオリティーです。
トイレ
長距離バスはもちろんトイレも完備。
キルキンチョ便は特に衛生管理は徹底されている印象を受けたのですが、それはトイレが思いのほか綺麗だったのが大きいでしょう。
便座とハンドソープが設置されているだけで大違いです。
Wi-Fi
国際SIMがまさかのトラブルで仕えなかった筆者にとって、何らかの方法でインターネットに接続することはこの時の緊急課題でした。
ボリビアの長距離バスはWi-Fi搭載を謳いながらきちんと稼働していないものも多くやや疑っていたのですが、キルキンチョは車内Wi-Fiもちゃんと稼働しており利用することができました。
ただパスワードは2階部分にありなかなか直接教えてもらえなかったため、筆者が利用できたのは割とボリビア国境に近づいてきてからだったのですが。
車内食
キルキンチョ便に限るのかどうかは分かりませんが、南米の国際長距離バスでは車内食が無料で提供されるケースもあることをこの時初めて知りました。
筆者の知る限り、ボリビア国内便では途中の売店やレストランなどで自分で食事を調達することはできても無料での提供はありません。
ですがキルキンチョ便に乗る際はもはやアルゼンチンペソの現金は必要なし。安心です。
しかも車掌さんが吟味してくれているのか結構味付けがしっかりしていておいしいモノばかりだったので、どんな食事が提供されたのかここでご紹介したいと思います。
ちなみに無料車内食が提供される確信を持てなかった筆者は、最初に立ち寄った売店でサンドウィッチを購入しました。
特に安いものを選んだので生ハムとチーズだけのかなりシンプルなものだったのですが、塩気が利いててまぁまぁ値段相応の味でしたw
またこのタイミングで説明されたことですが、座席1つ1つに簡易テーブルが備えられており快適に食事をとることができます。恐るべし南米の長距離国際バス。
最初の夕食
ブエノスアイレスのバスターミナルを出発した後最初の売店に立ち寄り、そのしばらく後に提供された最初の食事です。時刻は午後7時くらいだったかと思います。
車掌さんが徐にテーブルの説明と食事の提供を始めました。
尚、すべての食事には炭酸飲料が付いてきます。車内の冷蔵庫はなんと最後部座席中央にあるロッカーのようなケースで、使い捨てカップにより振舞われました。
どうもご飯の上にのっているのはチャーシューと鶏むね肉を薄くスライスしたもののよう。
ニンニクの風味が利いていてとても美味。アルゼンチン特有のグルメなのかは分かりませんが、少なくともボリビアではなかなか口にできない味だったのが印象的でした。
これが筆者にとって最初に口にした「アルゼンチンの味」。サンドウィッチはほぼ各国共通の味ということでノーカウントです。
小さいパンとお菓子もおまけで付いてきました。
2日目の昼食
時は経ち2日目の昼頃。2回目の食事です。
最初と同様に車掌さんにより食事の提供がされ、見てみると今度はチキンカツにチーズがかかっているようなものが。
ボリビアでいうところのミラネッサ・デ・ポージョのような感じでしょうか。
ただチーズの雰囲気はややパルメザンぽい感じで、明らかにボリビアのものとは違うことが分かりました。
下に敷いてあるのは味付けされたご飯とフライドポテト。
こちらも大変おいしく頂きました。
2日目の夕食
後述しますが国境を通過した直後の都市ヤクイバのレストランにて、バスの乗員全員降りて夕食を頂きました。
ヤクイバで食べられるものはほぼほぼヤパカニでも食べられるもので、ついに「ボリビアに戻ってきた」感が五感を通して襲ってきます。
安定の鶏のオーブン焼き。日本語に言い換えるとこういう響きですが、現地ではSpiedo de pollo(スピエド・デ・ポジョ)といいます。
これをもって車内食は以上となり、あとはサンタクルスへ到着。
国境通過
国際長距離バスは、当然のことながら出入国手続きも旅程に含まれることとなります。
経験を基に注意点などをまとめます。
事前準備
外国人がターミナルにてバスのチケットを購入する際には、アルゼンチンに正式な手続きを経て入国したかどうかを確かめられます。
具体的にはパスポートにちゃんと入国印があるかどうかチェックされます。
これはバスの車内でも同様で、車掌さんによって一人一人にヒアリングが行われます。
正確な氏名の表記に加え職業などいくつかの個人的な質問がされる場合もありますが、いずれもありのまま回答しておけば問題ないでしょう。
時には現地で馴染みのない職業のため理解されにくいこともあるかもしれないため、スペイン語で自分の職業をどのように説明できるか前もって準備しておくとスムーズにいくに違いありません。
国境にて
国境の出入国管理局に到着すると、まずは手荷物検査が行われることになります。
バスを降りたらまずは出国手続きです。
ぞろぞろと列に続いて窓口に行き、順番が来たらパスポートを提出するだけ。
それが終わったらバスに戻り、荷室に預けたものを含めすべての荷物を手元に集めます。
全員の準備が整ったら再びぞろぞろと建物の中へと入ります。
荷物を自分で開ける必要はなく、順番に検査機器に通していきます。
何か特別怪しまれた場合のみ荷物を開けるよう指示されますが、普通は何事もなく通過していきます。
そうしたら今度は荷物を持ったまま建物のボリビア側へと進んでいき、ボリビア側の入国手続きを行います。
こちらもパスポートを提出するだけでOK。
非常に簡単ですね。
すべての手続きが終わったらバスに戻り、手荷物を元のように預けて出発です。
両替
ボリビア側で出発したらすぐ近くの両替屋に一時停車し、両替するための時間が与えられます。
レートは店によっていくらか違う場合があるようで、直後の食事で同乗者と話している時に業者間で両替額の差があることを知りました。
その同乗客は大勢とは違う近くの店を知っていて、しれっとそちらを利用したのだと。
金額が大きくなればなるほど両替レートの違いは影響が大きくなるので、知識と経験はやはり大切ですね。
旅程全体を通しての印象
筆者が率直に感じたポイントなどをまとめます。
衛生面の心配はほぼ無し
日本人が海外に行ってまず心配することの1つは衛生観念の違いでしょう。
公共交通機関に関しては泥やほこりだらけの床や汗の染みた座席などを想像するでしょうか?
エアコンの利かない車内で窓を全開にして外の空気を浴びながらの旅も考え得るかもしれません。
ですがキルキンチョの長距離バスではそのような心配はありません。
車掌さんは若いボリビア人男性の方でしたが、自身の仕事にとてもプライドをもちながら業務に当たっておられる方でした。
その真摯な向き合い方は仕事の果たし方にたしかに表れており、休憩停車時には丁寧な車内清掃のためしっかりと時間がとられていました。
清掃を速やかに行うため足元の荷物は事前に上げて整えておくようアナウンスがあり、清掃の間は特段の理由がない限り全員が外でトイレを済ますなりしながら待ちます。
2日間にわたる長旅においてこれは重要なポイントです。
トイレの心配は?
前述の通りキルキンチョのような長距離バスには車体中央にトイレが完備されています。
ですが休憩所などに立ち寄った際にはその施設のトイレを有料で使うことができます。
「トイレのためにお金を払うのか!」と思うかもしれませんが、南米においてトイレが有料なのは至極当たり前のことなのです。
なのでアルゼンチン国内ではアルゼンチンペソを、ボリビア国内ではボリビアーノを常に所持しておくことが不可欠です。
トイレの相場はアルゼンチンペソであれば100ペソ(アルゼンチンの事情についてはあまり知らないのでご容赦)、ボリビア国内では大抵1ボリか2ボリ程度です。
日本円換算だと20円程度、どれだけ高くても40円か50円程度といったところ。
もしもの時のためにも小銭を常に持っておきましょう。
時間の過ごし方は?
2日間にも同じ座席で過ごすわけですから、自分なりの時間の潰し方は必ず何か持っておいた方が良いでしょう。
特にオフライン環境でも楽しめるような動画や音楽などを用意しておくと良いかもしれません。
車内のエンターテインメントも楽しむことができますが、作品数はどうしても限られる上にほぼすべてのコンテンツが日本語非対応。
スペイン語で映画やドラマを楽しめない方の場合は、あらかじめ自前のコンテンツをもっておくのがおすすめです。
ただし日中は目まぐるしく変化する景色に加えてバス自体も100km/h程度となかなかの速度で突っ走り続けるため、車窓を眺めておくだけでもあっという間に時間が過ぎていくことでしょう。
あとは睡眠をとること。特に長距離渡航直後の筆者にとってバス車内は時差ボケを緩和するのに最適でした。
電源はとれる?
南米のような途上国ではバス車体の細部のメンテナンスに関してどうしても弱い部分があり、不具合の生じた部分はやむなく放置されることが少なくありません。
したがって新しい車体ほどコンセントなど細かいパーツが壊れているハズレ席に当たる確率が低くなるわけです。
キルキンチョに関しては少なくとも最近配備された新しい車両を使っているように見受けられるため、コンセントなどで電源をとる分には問題となる可能性は低いでしょう。
各座席のひじ掛け部分にはACコンセントとUSBソケットがそれぞれ配置されているのでいろいろな機器を充電することができます。
ただしもしもの事態に備えてモバイルバッテリーを持っておくことも非常に大切です。
景色は?
南米が誇る大都市ブエノスアイレスからアルゼンチン北部・ボリビア国境へとつながる、都会から田舎、アルゼンチンからボリビアへの大きな環境の変化をその目で感じることができます。
1階席でも他のクルマに比べれば十分な高さがあるため、都市部でも田舎でも日常離れした眺望が広がります。
一晩中走り続けている間、電波から隔絶された旅疲れの筆者はずっと眠り続けました。
夜が明けてみれば車窓はすっかり田舎へと変化しています。
地平線が続く平原の中をカーブもなく突き進みます。
アルゼンチン北部のロサリオ・デ・ラ・フロンテラに到達すると、十字路を左へ。
ここで夜通し走り続けたバスは一旦休憩に入ることになります。
朝だったためか休憩施設に人気はなく非常に閑散としている様子でした。
犬が数匹。
休憩施設での時間は車内清掃も兼ねていて、基本的に車内には誰もいなくなります。
だいたい20~30分くらいは時間をかけて丁寧に掃除されていた印象。
この時点まで筆者は携帯の電波がない状態で過ごしていました。
休憩施設を出ると、ボリビア国境までさらに6~7時間ほど走り続けます。
なかなかの平均速度。
乗客が車内で食事をとっている間も休まず走り続けます。
到着は深夜
バスがどのくらい定時性があるかは分かりません。
ですが少なくとも筆者がサンタクルスに到着したのは深夜3時ごろでした。
もし誰も知り合いのいない外国人であれば、夜が明けるまでの数時間は眠らずに過ごさざるを得ないでしょう。
深夜のバスターミナルではスリなどどんなことが起こっても不思議ではありません。
これはバスに限ったことではなく深夜到着の航空便でも同じなのですが、ボリビアに旅行する際は必ず誰か知人もしくは信頼できる人とコンタクトをとり安全に過ごせるよう手配しましょう。
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