子どもの頃、時刻表を見るのが好きだった。
たとえ目的地へ行く予定がなくても、暇な時間さえあれば時刻表を開いて路線を追いかけていた。
「すれ違いできないのにこんなに頻繁に列車が行き来してるんだ」
「この駅で別々の方向に分かれて行った特急列車が、ここでまた同じ線路を走るんだ」
そんなことを調べているだけで、いつの間にか時間が過ぎていた。
それから月日が経つこと20年…。
久しぶりにコンパス時刻表を買った。
ページを開いた瞬間、なんだか懐かしい。
そして気づいた。
やっぱり時刻表、面白い。
でも鉄道に興味のない人からすると、
「……時刻表の何がそんなに楽しいの?」
となるはずだ。
今回は、久しぶりに時刻表を手にしたことで改めて感じた、時刻表の面白さを紹介してみたい。
時刻表って、そもそも何が面白い?
紙の時刻表は、ただ数字を羅列しただけの本にあらず。
眺めれば眺めるほどいろんなものが見つかる、宝の山なのである。
まあ「宝」を宝とみなすかどうかは人それぞれだが、少なくとも筆者はそう思う。
① 知らない場所へ行った気分になれる
時刻表は交通機関の発着の動きを示したもの。それらは我々をどこかに運ぶために存在している。
掲載されている列車本数は何百何千本にものぼり、誰もすべての列車に実際に乗ることはできない。
でも逆にいうなら、それらに乗るシミュレーションには制限はない。いくらでも、時刻表を見ながら無限にできる。
選んだ一本の列車が出発し、走り、目的の駅へと到着するさまを紙のページ上で追うことができるのである。

その際に使用車両や駅の構造まで併せて調べるなら、あたかもすでにそこに行ったかのようにさえ感じる。
たとえ実際に足を踏み入れたことのない場所であっても、時刻表を使えばそれが可能なのだ。
加えて筆者の場合は、ボリビア人の妻には地名や漢字に親しむチャンスにもなる。
日本人にとっても、地名やその位置、距離感を把握する助けになるはずだ。
② 列車同士の「つながり」が見えてくる
駅に掲載してある発車時刻表をご覧になったことはあるだろうか。
行ごとに5時、6時…と区切られており、その行にはそれぞれ何分に当駅から列車が出て行くかを示している。
この表は当駅発の列車を把握するうえでは非常に分かりやすいが、目的次第ではたくさんのデメリットがある。
たとえば、その列車に乗るといつ終点に着くのかがわからない。
つまり駅の発車時刻表とは、列車が当駅に着いて去っていく「点」を示しているものなのだ。
対して紙の時刻表は、一本の列車の点と点をつないで「線」として可視化する。
それら一本一本の「線」は、朝→昼→晩と時間とともに広がり「面」を構成する。
そうやってできた各路線の「面」は、主要な乗換駅で複雑に交差していく。
どういうことなのか。

たとえばA駅を8時に出た列車がB駅、C駅、D駅……と進んでいく。
その途中で別の列車とすれ違い、B駅では別の路線から来た列車と接続する。
さらにその列車を追いかけていくと、今度は別の都市へ向かう列車につながっていく。
この緻密に張り巡らされた列車同士の「つながり」をまとめて眺められるのも、紙の時刻表ならではの面白さだ。
時刻表は鉄道ネットワークをコンパクトに収めた地図のようなものといえる。
③ 時刻表から地域の姿が見えてくる
時刻表に表れる列車は、その地域の人の動きを表している。
たとえばものすごい高頻度で列車が通る路線もあれば、1時間か2時間に一本のような路線も存在する。
シンプルに本数だけに着目するなら前者は人口の多い都市部の路線、後者は比較的人口の少ない地域だと推測させる。
でも読み取れるのはそれだけではない。
たとえば朝夕だけ列車の運行頻度が高いのであれば、通勤・通学需要の多い区間なのかもしれない。
運行本数が絶望的に少ないのは、人口よりも鉄道の使い勝手の悪さやマイカーの普及によるものかもしれない。
当然ながら時刻表だけでこれらの答えが分かるわけではない。
時刻表にはたくさんの疑問の種が散らばっているわけだ。
そこから「なぜだろう?」と考えて、地図や統計などを調べてみる。
こうやって仮説を立て検証すると、人々がどのくらいの規模でどんな営みをしているのかが見えてくる。
その目線で時刻表を見ていくなら、だんだんと時刻表が「鉄道の情報」ではなく「その地域の生活を読み取る資料」になってくるのだ。
④ 旅行の計画を考えるのが楽しい
旅行には、出発前・旅行中・帰宅後という3つの楽しみがある。
行く前に計画している時点で楽しんで、旅行中に楽しんで、帰宅してからは旅先での経験を思い出して楽しむ。
筆者が特に大切にしているのは、行く前の旅行の計画、特に目的地までの道中の計画である。
「どこから行けば安いか」
「どの列車に乗れば疲れにくくて効率がいいか」
「どこで乗り換えるべきか」
「複数ある目的地をどういう順番で攻略していくか」
こんなことをいろいろ考えていると、まだ実現していない体験をすでに味わっているかのような感覚になる。
一冊の時刻表が手元にあれば、この体験を深く楽しめる。
ちなみに、これらは筆者が天橋立・伊根への旅を計画していた時にもやっていたことだ。
実際に時刻表を使って旅行を組んでみた例はこちら。

⑤ 時刻表を眺めているだけでも楽しい
上の4つのポイントは、どれも「何かのために」時刻表を使うということだった。
- 旅行する
- 列車を調べる
- 地域を知る
- 乗り継ぎを考える
たしかに時刻表は役に立つ。
でも筆者にとって時刻表は、ただ役に立つだけの本ではない。
たとえばあなたはフライトレーダーを眺めるのが好きなだろうか?
空港間を行き来する航空機を可視化したアプリだ。
好きな人なら、航空機が動いているのを眺めているだけでも楽しめるだろう。
理屈ではなく感覚の領域でそれが好きなわけだ。
時刻表はいわばフライトレーダーの鉄道・アナログバージョンといえよう。
眺めているだけで、日本の鉄道ネットワークが息をして動いているさまをイメージさせてくれるのである。
久しぶりにコンパス時刻表を買ってみて思ったこと
旅行をするために時刻表は絶対に必要なものではない。
たいていの必要な情報はスマホひとつあればどこでも手に入る。
しかも少しずつ値上がりしてきている。
以前は600円で買えていたが、今ではほぼ1,000円だ。
でも最近またコンパス時刻表を買いたくなった。
決して必要だったわけではないし、旅先でかさばる荷物になるにもかかわらずだ。
そしてやはり感じたのは「面白い」ということ。
かつて青春18きっぷを駆使して時刻表を片手に旅をしていた感覚が懐かしく思える。
そしてどれだけテクノロジーが進歩しても、紙の時刻表の安心感や手軽さはずっと残り続けてほしいと切に願う。
時刻表は鉄道に詳しくなくても楽しめる
筆者はたまたま鉄道が好きになる性格と環境とともに育った。
その環境を構成するパーツのひとつが時刻表だった。
時刻表を眺めて、それにかかわるいろんなことを調べながら鉄道のすごさや面白さに気づいてきた。
自分の場合はそうだった。
でも筆者は、たとえ鉄道に興味がなくても、鉄道を好きにならないとしても、ぜひ一度はさまざまな人に時刻表を手にとってもらいたいと思う。
生きていればどんな面白いことの扉が開けるか分からない。
あなたにとって、近いうち時刻表を手にとるのがその時かもしれないのだ。
まとめ
時刻表は、列車の出発時刻や到着時刻を調べるためだけの本ではない。
知らない場所への旅を想像したり、列車同士のつながりを追いかけたり、そこから地域の人々の暮らしを想像したり。もちろん、実際の旅行の計画を立てることもできる。
そして何より、特別な目的がなくても眺めているだけで楽しめる。
スマートフォンがあれば、列車の時刻を調べるだけなら紙の時刻表は必要ない。
それでもページをめくりながら、一本の列車を追いかけ、その先にある別の列車や駅、知らない街へと思いを巡らせる。
そんな楽しみ方ができるのが、時刻表の面白さなのだと思う。
もしこの記事を読んで「ちょっと面白そうだな」と感じたなら、ぜひ一度、時刻表を手に取ってみてほしい。
まずは自分がよく知っている駅のページを開いてみるだけでもいい。
そこから一本の列車を追いかけてみる。
すると、今までただの数字にしか見えなかったものが、少しずつ「動いている列車」に見えてくるかもしれない。
そして気づけば、あなたも時刻表を眺めながら時間を過ごしているかもしれない。

